福川 伸陽

ラプソディ・イン・ホルンIII
CD(KING KICC1256)

ラプソディ・イン・ホルンIII
1.川島素晴/ラプソディ・イン・ホルン
 〜ホルン吹きの愉快ないたずら (ショート・バージョン)
2.ラフマニノフ/ヴォカリーズ
3.   〃  /チェロ・ソナタ ト短調より第3楽章
4.ファリャ/スペイン舞曲第1番
5.マーラー/「原光」〜交響曲 第2番「復活」第4楽章
6.ブラームス/間奏曲Op118−2
7.鈴木優人/モーツァルティアーナ〜モーツァルトの
  主題によるしりとりヴァリエーション
8.フォーレ/シシリエンヌOp78
9.ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
10.カサド/愛の言葉
11.ドビュッシー/美しき夕暮れ
12.プーランク/愛の小径
13.ローゼンブラット/カルメン幻想曲
14.プリマ/シング・シング・シング(狭間美帆編)

  福川 伸陽(ホルン)(1〜14)
  三浦友理枝(ピアノ)(1〜14)
  東京ホルンサウンド(14)
  丸山 勉(ホルン)今井仁志(ホルン)
  木川博史(ホルン)村中美菜(ホルン)
  石山直城(ホルン)野見山和子(ホルン)
  勝俣 泰(ホルン)
  竹島悟史(パーカッション)
  録音2015年10月6〜7日
    稲城市立iプラザホール

 N響首席に就任した福川伸陽の「ラプソディ・イン・ホルン」シリーズ第3弾は冒頭からホルン吹きのエチュードのような愉快ないたずらがあります。
 川島素晴の「ラプソディ・イン・ホルン〜ホルン吹きの愉快ないたずら」はティルに始まるオーケストラ・スタディというもので、ホルンの名旋律がどんどん演奏されます。R.シュトラウス、ベートーヴェン、ドヴォルザーク、シューベルト、ブラームス、チャイコフスキー、ラヴェル、ホルスト、モーツァルトと続きます。そのピアノパートが別の曲を弾くという大変面白いものです。ソロを吹く福川のホルンがまた恐ろしくうまいので楽しいです。最後は「田園」の最後のソロ(ゲシュトップ)で終わります。
 ラフマニノフの「ヴォカリーズ」は様々の楽器で演奏されますが、ホルンのやわらかな響きは哀愁的でロシア民謡を聴くようです。
 ラフマニノフの「チェロ・ソナタ」をホルンで吹くのは冒険と思いますが、チェロとホルンは音域が共通でよくチェロ作品をホルンで演奏されます。福川はこのチェロソナタを全曲ホルンで演奏したそうですが、ここでは第3楽章「アダージョ」を演奏しています。まるで「ヴォカリーズ」の続きのようにも聞こえます。低音域も使うので迫力があります。
 ファリャの「スペイン舞曲第1番」は歌劇「はかなき人生」のなかの1曲でクライスラーの編曲したヴァイオリン作品として有名です。ホルンで吹くのは超絶技巧を要しますが福川のホルンはなんとも凄い演奏でホルンでここまでやれるとは驚きです。
 マーラーの「原光」は交響曲 第2番「復活」の第4楽章です。ホルヴァートの編曲でこの名曲を歌います。マーラーの歌曲集「少年の魔法の角笛」の中の1曲でもあります。
 ブラームスの「インテルメッツォ(間奏曲)Op118−2」はピアノ小品集の中の1曲、ホルンで演奏するのは珍しいですが、まるでオリジナルの作品のようです。
 鈴木優人の「モーツァルティアーナ〜モーツァルトの主題によるホルンとピアノのためのしりとりヴァリエーション」このアルバムの中でも圧巻といえるものです。主題をモーツァルトのホルン協奏曲第1番第1楽章の名旋律にして作曲家のしりとりをしていくものです。そしてその作曲家の作品を演奏してなおかつ主題も吹くもので実に面白い。中でも「熊蜂の飛行」は超絶技巧物です。なおしりとりはMozart--Tchaikovsky--Esaye--Elger--Rachmaninoff--Faure--Etovos--Strauss--Schumann--Noh--Handel--Leclair--RimskKorsakv--Vivardi--Isaac--Chopin--Nakada--Amadesと続いて最後にモーツァルトで終わります。なんとも忙しい曲です。その中にちりばめられた名曲はききものです。シューマンの次のNohは「能」のことで、マウスピースをポンポン叩いたり、譜面台を叩くなど能の世界を表現しています。ヴィヴァルディには「四季」の「春」が出てきます。
 フォーレの「シシリエンヌ」は「ペレアスとメリザンド」の中の1曲でフルート作品でも有名です。しっとりとした名曲です。
 ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」はホルン・ソロのある名曲です。表現の難しい作品で演奏だけでなく演奏家の音楽性が試される難曲といっても良いでしょう。福川の演奏は絶品。ピアノも素晴らしい。
 ガスパール・カサドはスペインのチェリストで作曲家、「愛の言葉」は師匠カザルスのために書かれたものです。チェロの作品らしいものですがホルンと聞いても素晴らしいものです。曲はフラメンコ風のところがあってスペイン情緒を感じられるものです。
 ドビュッシーの「美しき夕暮れ」は歌曲でホルンへの編曲はカジミエシュ・マハラによります。ピアノの趣とホルンの流麗な演奏が素晴らしい。
 プーランクの「愛の小径」も原曲は歌曲です。ピアノのきらめきとホルンの歌がなんともいえないもので希望に満ちた「愛の小径」のようです。
 ソロの最後はローゼンブラットの「カルメン幻想曲」です。サラサーテの「カルメン幻想曲」も有名ですが、この幻想曲はクラリネットの作品でホルンで吹くのは無理があります。それを見事に吹いてしまう福川の技量には感服です。リード楽器のクラリネットとは違って唇がリードのホルンでは勝手が違いますのでこの演奏は凄いとしかいえません。このアルバムの白眉です。
 最後のルイ・プリマの「シング・シング・シング」はジャズナンバーです。これを狭間美帆が8本のホルン、ピアノとパーカッションのためにアレンジしたものです。ホルン・アンサンブルでジャズを演奏するもので、じつに素晴らしい演奏、スイングのうまさはびっくりで、モーツァルトのフレーズまで入るホルンらしさも垣間見ることができます。これはブラボーです。


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